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「かぁーっ! 体中に返り血を浴びておきながら何を言うか! そこの仏さんも貴様が殺したに違いない。殺生だけでなく虚言まで用いるとは腐れ果てた外道! もはや許さじ!!」
まったく聞く耳を持たない。
だがワンの指摘はあながち間違いではない。雨で薄れているとはいえ、男は怪物の血で体中を朱に染められている。
先程の怪物との戦いを目撃していなければ、確かに男が二人の人間を殺したと見られても仕方がないかも知れない……思わず男は言葉に詰まった。
この様子に得たりと相好を崩すと、ワンは身構えた。
「成敗っ!」
不意に老人の姿が目前に現れた。
大気を穿つ音が響くよりも速く、老人の両手はそれぞれが掌底と手刀を形作ると、男に叩き込まれる――デザートケープの一部が裂け飛ぶ。
飛び離れた男は、地に足が着くよりも速く、背負っていたザックを放り捨てると、即座に身構えた。
だが老人の追撃は続く。
速く、長い一歩で瞬時に間合いを詰めると、男に防御をとらせる間も与えず鉄山靠(てつざんこう)を見舞ってきた。
速度と重さを兼ね備えた一撃に男はたまらず踏鞴(たたら)を踏んで退がる。
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