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強かに腹部を蹴られ、クザンの身体は跳ね飛んだ。後方に在った住居――もとい、掘っ立て小屋の壁に背が減り込むほど激突した。
「ぐ……あぁ……」
クザンの意識が遠のく。
だがこんな事は今までに何度も有った。中東でも、南米でも、東欧でも――訓練中でさえもしょっちゅうだった。必死に意識を紡ぎ、なんとか立ち直らせる。
ボヤけた視界を、頭を振ってはっきりさせようとしたとき――何かが大きく映った。
ワンが繰り出した掌底だと脳が認識する前に、クザンの本能が体を突き動かす。咄嗟に膝を折り、身をかがめる――
寸前まで頭部が有った場所を砲弾のような勢いでワンの腕が行き過ぎた。
代わりにそれを受けた背後の掘建て小屋の壁が、文字通り木っ端微塵となった。
ゾッと、冷たい戦慄が背筋を降りる。これ程の腕を持つ人間が居るとは!
だが鍛えられたクザンの闘争本能は、常人なら昏倒している程のダメージも、恐怖すらも捻じ伏せ、右手は咄嗟にデザートケープの中に伸ばしていた。
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