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唐突に降りだした雨に、通りを行く人々は口々に悪態を吐きつつ、めいめい雨から逃れるべく急ぐ。
そんな中、酒瓶を抱えフラフラと危なっかしい足どりで、近くの軒下に逃れようとしていた物乞いの男がぬかるみに足を捕られて転んだ。
「う~、畜生めぃ……あ~待てってば!」
どうやら酔っ払っているらしい。
抱えていた酒瓶が、石畳の上をころころと転がっていく。
呻きながらも必死にそれを拾おうと手を伸ばすが、物乞いの動きは鈍く、瓶との距離は開くばかりだ。
「ま、待てよぅ、お前まで俺を置いてくのかぁ? ヒック――お?」
転がって行く酒瓶が、なにかにぶつかって止まった。
手を伸ばそうとしたが、それは上から降りてきた誰かの手に広い上げられる。
物乞いが仰ぎ見ると、この地方にはそぐわない、デザートケープを頭からスッポリと被った人物が、酒瓶を手に佇んでいるではないか……
酒瓶を持った筋肉質な腕と、フードから無精髭に覆われた顎が覗いている事から、この人物が男である事を告げている。
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