469人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
こうでもしないと胸の痛みに顔が歪んでしまいそうだったから。冗談でかわした自分を褒めてやりたい。
その俺の腰に手を回し、彼女は背中に体を寄せてきた。
「そうね。体の相性はバッチリだもんね」
「ちょっと、俺もう無理っすよ。明日も学校あるんすから寝させて下さいよ」
「もー、仕方ないなぁ。なら腕枕で我慢したげる」
俺の腕を枕にしようと無理な方向に引っ張られ、俺は痛くて少し乱暴に自分の腕を取り戻した。
「タツ」
「いてぇっすよユウカさん」
「タツ」
痛む関節を摩り、頑なに彼女の方に向かない俺への呼びかけは、ひどく不安定で揺れていた。
どんなに彼女を自分の中へ入りこめないようにしたって、この震える声に、濡れる瞳に、縋りつく手に、囚われてしまうんだ。
辛い想いをするのは自分だといつだって分かっているはずなのに、俺は彼女への想いを止められなかった。
「泣くなよ、ユウカさん」
「タツが冷たいから」
「そばにいます、ひとりにはしません。だから、泣くな」
今回もまた声を出さずに泣く彼女を抱きしめながら、俺もばれないように少し泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!