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涙の混じるキスは塩辛く、俺たちはまた仮そめの熱に溺れる。
朝起きて隣を見ると彼女はいなかった。冷たくなっているシーツに、彼女がいなくなってから時間が経っていることを知らされた。
「…またかよ」
目が覚めた時に彼女が隣にいたことは一度もなかった。
今までも、そしてこれからも続くであろうその行動は、彼女からの線引きのように感じられた。
彼氏ではなく、セフレなんだという。
こんなことをしなくても十分に分かっている。自分が彼女にとって寂しい夜を紛らすだけの存在だということは。
サイドテーブルの上に置かれたメモには、いつものように二言だけ添えられていた。
───ごめん、付き合ってくれてありがとう
俺もそのメモをいつものように丸めて捨てた。
俺たちの関係は体を重ね合い、互いの体を慰めあうことを目的としていて。簡単にいえばギブアンドテイクで成り立っている関係なのだ。
なのになぜ、感謝され謝られなければならないのか。
沸き上がる虚しさを埋めるように、俺は彼女の幻影を求めながら冷たいシーツを胸に掻き抱いた。
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