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ユーラシア大陸の内陸にあるアフガニスタンは、インド・パキスタンの西北。イランの東。タジキスタンら旧ソ連連邦の南に位置する。
タリバン政権が崩壊したとはいえ今もなお政情と治安に多くの不安を抱えるこの国は、古くからいくつもの民族が移り住み、いくつもの国家が興亡した歴史を持つ、文明の十字路である。
その役割故に、このアフガニスタンと、そこに隣接するパキスタン、西北インドにかけての地域は、その訪れる困難さに比例するかの様に、多くの人々の憧れをかき立ててきた土地であった。
西洋史、特に古代ギリシアに興味を持つ人々にとっては、ここはアレクサンドロスの東征とそれに続くギリシア人植民地とヘレニズム文化が栄えた土地として。
仏教に心惹かれる人々にとっては、初めてブッダを人として表したガンダーラ美術が生まれた土地であり、大乗仏教が発展した土地でもある。
つまりここはやがて日本にまで届くことになる仏教が、インドの一宗教から世界宗教として飛躍する契機を迎えた地域なのである。
シルクロードに憧れる人々にとってここは東西交易路の要衝。人と物が往来し、異なる文化が交わって新たな文化が生み出されてきた土地である。
これらに共通するものは異なる民族、異なる文化の出会いと融合である。その出会いと融合の結果、後世の人々にまで影響を与える、また時代を越えて人々の胸を打つ思想、美術、文化が生み出され、発展することが出来たのである。
しかし異なる文化を持つ民族と民族の出会いは、喜ばしいものばかりでは無かったであろう。
それが土地や資源、利権を巡る争いが絡むのであれば尚更である。
その戦いに勝利した側は良いだろう。得られるものを得てその地に生きる基盤が築けるものならば。
だが、敗れた側はどうなるのか。これから語られる短い話は、そんな境遇に追いやられた者達の、物語とも呼べない物語である。
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