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あるアパートの一室。
日光がカーテンの隙間から射してくる。
外には朝が訪れている。
室内には、明らかに人が布団に潜って寝ていることを物語るように、ベッド上の掛け布団に膨らみがある。
ジリリリリ!
そして、聞き慣れた目覚まし時計の喧しい音がする。
布団に潜っている主は、布団から手だけをだし、手探りで目覚まし時計を止め、二度寝をする。
今日は布団に潜る主にとって、大事な日であることをすっかり忘れて。
だが、それも束の間だった。
「起きなさい!大事な日でしょ!」
まだ少し幼さを残すような少女の声と共に、布団を剥される。
「もう少し寝させてくれても……」
布団を頭から被って寝ていた主が言う。青年の声である。
「朝食とって、用意して事務所に向かうのに、寝る時間は無いの」
「事務所……?えと……何のことだか……」
青年は寝ぼけ眼で答える。
少女は呆れた様子で青年に向かって言った。
「今日から仕事だよ?しっかりしてよ、アルフ」
仕事……その一言で青年、アルフはようやく気付く。
彼は数日前に神曲楽士派遣事務所に入社する手続きを済ませ、今日が事務所へ仕事に向かう初日だった。
「時間は?」
「あるよ。さっさと朝食を作らないと」
「わかった。セレスは先に座って待ってて」
アルフはそう言い、台所へ向かった。
セレスと呼ばれた少女は後を追う様に着いて行き、台所前のテーブルの席へ座った。
「トーストでいい?」
「アルフの好きにどうぞ?なんでも食べるから」
そう聞き、青年はパンを二枚用意し、トースターに入れて焼き始める。
焼けるまでに、コーヒーとバターを用意する。
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