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「その……それって卵焼きだよな?」
「そうだけど?」
「何も入ってない?普通の?甘いやつ?」
「うん、お砂糖と牛乳だけのやつ」
「……頼む、俺に一つくれないか?」
何言ってるんだと怒鳴りつけてやろうかと思ったが、仙崎の目は真剣だった。
思わず言葉を飲み込む。
「俺さ、普通の卵焼き、一度食べてみたかったんだ。庶民のお弁当って感じで。シェフに頼んでも妙にアレンジしたやつ作るし、母さんは料理なんて絶対しないし……」
少し遠い目をして話す仙崎。
私はそれを見てつい彼に同情的になってしまった。
黙ってお弁当箱を差し出す。
「あ、ありがとう!」
仙崎の表情がパッと明るくなった。
嬉しそうに1つ、卵焼きを摘んで頬張る。
「……うまい!」
「あー、はいはい。二度とやらないから」
「深雪の母さんは料理上手なんだな」
「いや、これ私が作った」
「え……?」
仙崎が目を丸くした。
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