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「まぁ脳貧血というか貧血の症状としては、体験から言ってまず一定の姿勢を保つのが難しくなるの。脳が苦しいよーって言ってるわけだしね」
「ふむふむ」
「で、限界に近づくにつれ視界の隅で光の粒子みたいなのがちらつき出して…」
「光の粒子?」
大崎が脳貧血について説明しだしたとき、小野はその隣に移動してメモを取りはじめていた。
熱心にメモを取る小野を見つめる大前は、小野が文字を書くスピードに合わせて話している。
まるで家庭教師とその生徒のようだ。
「人によって表現は違うかもね。黒っぽいっていう人もいれば、白っぽい人もいるし」
「ふーん」
「そこまできてるときに、強い光を見ればもうダメね」
「え。この台本に書いてる日光も?」
小野が特に悪気なく言った言葉は、大崎に大きな恐怖と怒りを植え付けたもよう。
「健斗!」
「は、はい!?」
「貧血が限界な人に日光、特に低血で死にそうな時間の朝日なんか見せたら大変なことになるわよ」
「そ、そうなの?」
「一瞬で視界は真っ白。たっていられなくなるし、酷ければ意識手放すわ」
凄んだ顔で小野に力説する大崎。
それを見て、小野は「この人素と矢吹先生の時と全然違う」と思った。
「わ、分かった。倒れるまでの過程が理解できてよかったよ」
「演技頑張ってね」
「うん。有難う!」
「いいえ。どう致しまして♪」
にこりと微笑む大崎。
その微笑みをみる度に、小野の表情が勝手に和らぐことには、まだ二人とも気付いていない。
その時ちょうど、撮影に入るという知らせがきた。
「さ、今日も頑張りますか」
「よし、頑張って倒れるぞー!」
「健斗?それなんか違う」
「……そう?」
次回back stageへ続く
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