trap.1

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「?どうしたの」 「え、いや…昨日は寝付きが悪かったんで」 「入学式があるから舞い上がったのかしら」 「そういうわけじゃ…」 先生は言葉を濁す俺を見て、からかうような笑みを見せた。 その表情は大人の余裕みたいなものを含んでいて、俺は少し複雑な気分になった。 「今はたぶんまだLHRだろうけど、もう少し休む?それとも」 「き、教室に帰ります!」 LHR。 その言葉を聞いて、我に返った。 考えれば俺は、入学式初っ端から倒れたのだ。 クラスメイトの名前も誰一人として知らないのに、自己紹介の場を与えられる前に倒れてしまった。 完全にみんなに置いていかれているかもしれない。 もしくは笑いのネタになってるか…。 後者ならまだ輪に入りやすいけど。 「そう。じゃぁ書いてもらうものがあるからこっちに来てくれる?」 「はい」 俺は自分の思考回路を巡らせながら、作業机へ向かう先生に着いていった。 先生が歩くと、真後ろにいる俺の方へ良い香りが漂ってきた。 「ここにクラスと名前、生徒番号を書いてね」 先生は『利用者名簿』と書かれた紙をこちらへ差し出すと、俺が書き込む間ずっとこちらを見ていた。 「へぇ。桜野良也くんか」 満面の笑みで俺の名前を読み上げた。 「私は矢吹彩子。あまり宜しくはしない方がいいんだけど、一応知っておいてね」 俺から用紙を受け取ると、先生は軽く自己紹介をして、それからもう教室に行っても良いよと言った。 お礼を言って廊下へ出ると、春先の少し冷たい空気が頬を刺した。
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