33人が本棚に入れています
本棚に追加
「?どうしたの」
「え、いや…昨日は寝付きが悪かったんで」
「入学式があるから舞い上がったのかしら」
「そういうわけじゃ…」
先生は言葉を濁す俺を見て、からかうような笑みを見せた。
その表情は大人の余裕みたいなものを含んでいて、俺は少し複雑な気分になった。
「今はたぶんまだLHRだろうけど、もう少し休む?それとも」
「き、教室に帰ります!」
LHR。
その言葉を聞いて、我に返った。
考えれば俺は、入学式初っ端から倒れたのだ。
クラスメイトの名前も誰一人として知らないのに、自己紹介の場を与えられる前に倒れてしまった。
完全にみんなに置いていかれているかもしれない。
もしくは笑いのネタになってるか…。
後者ならまだ輪に入りやすいけど。
「そう。じゃぁ書いてもらうものがあるからこっちに来てくれる?」
「はい」
俺は自分の思考回路を巡らせながら、作業机へ向かう先生に着いていった。
先生が歩くと、真後ろにいる俺の方へ良い香りが漂ってきた。
「ここにクラスと名前、生徒番号を書いてね」
先生は『利用者名簿』と書かれた紙をこちらへ差し出すと、俺が書き込む間ずっとこちらを見ていた。
「へぇ。桜野良也くんか」
満面の笑みで俺の名前を読み上げた。
「私は矢吹彩子。あまり宜しくはしない方がいいんだけど、一応知っておいてね」
俺から用紙を受け取ると、先生は軽く自己紹介をして、それからもう教室に行っても良いよと言った。
お礼を言って廊下へ出ると、春先の少し冷たい空気が頬を刺した。
最初のコメントを投稿しよう!