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しかし、ここで一悶着あった。
ご丁寧に小物入れまで持っているくせに、裕子が頑なに教えることを拒んだ。
「だから、嫌だって」
「なんでだよ、一緒に旅した仲間だろ。このままさよならなんて、寂しいとは思わないのか?」
俺も思わず言葉に力がこもる。
「別に」
しかし、裕子の反応はあくまで素っ気無い。
「まぁ、べつにどーでもいーんじゃないか」
亮介は気にした様子もなく、笑顔で言う。
「でも、折角仲良くなれたんだしさ」
由美は遠慮がちながらも主張した。
「由美にだけなら教えてもいいけどさ」
この言葉に俺はプチッときた。
「じゃあ、勝手にしろよ。俺たちだけで連絡先交換するから」
裕子にわざと背中を向けて、亮介と由美を自分のもとに呼び寄せる。特に駆け引きをしたつもりは無かったが、他はそう受け取っていたのかもしれない。何も言わずに2人は俺と動きを合わせてくれた。
一瞬の沈黙。その後聞こえたのは、何とすすり泣きだった。
びっくりして後ろを振り返ると、間髪入れずに平手が飛んできた。
「!」
殆ど受け身を取れないままで、俺は地面に突っ伏す。
「お前、全然わかってねえな!」
俺が文句を言う間も無く、まるで男のような言葉遣いで怒鳴られた。
目には全く涙は溜まっていない。
見事な演技だった。
「なにすんだよ」
這いつくばった状態で言い返したが、裕子は俺に背を向け、他の2人と連絡先を交換していた。
しばらく悩んだが更に言葉を紡ぐことはせずにその輪の中に加わると、今度は特に何もしてこなかった。
こうして、俺達の旅は終わっていった。
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