旅のおわり

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とはいえそれは半分興味本位であり、まさかその修行が本当に役立つ日が来るとは思っていなかった。  大学を卒業し、就職氷河期と言われる中でやっとこさ引っかかった第2志望の会社。そこで1年間を過ごし、何とかペースを掴めてきたかなという時分に、「それ」はやってきた。  就業時間中、デスクの横に置いていた鞄が異様な光を放ち始めたことに気付く。正確には鞄ではなく、親の言いつけで幼少時代から肌身離さず持たされていたお守りが光っていたのだが。  俺は思わず頭を抱え込む。  同僚に「どうした?人生にでも苦悩してるのか」と冗談交じりに言われたが、その声も何処か遠い異国の言葉のように聞こえた。 「お守りの光は災いの証」  これは父親から言われた言葉だ。そしてこれは、うちの家系だけに伝わっているものではない。  モノを真剣に変える能力は我が家だけのものだが、このお守りとあの言葉は、日本に点在する特殊能力を持つ家系に伝わるものらしい。日本ではお守りだが、他の国ではティアラや指輪、ブレスレットが伝わっている家系もあるとかないとか。  つまりお守りを手にした途端、自分に何かが起こることは火を見るより明らかだった。お守りが光る所を見るのは生まれて初めてだが、おそらく魔王が復活したのだろう。  鍛錬は社会人になっても今日まで続けているものの、自信はない。何より魔王との戦いとなれば、やはり命を賭したものになるだろう。まだ成人してから3年しか経っていないし、この年で彼女もいない。  人生の楽しい部分を殆ど知らないままに命を落としてしまう可能性があることを考えると、「勇者」が聞いて呆れるほどに自分の中を恐怖が覆い尽くした。  いっそ逃げてしまいたい・・・。 しかし、それでもふと考える。  過去、魔王を倒したのは自分の曽祖父なのだ。  ということは他にも特殊能力を持っている人間がいるとはいっても、魔王を倒すほどの能力を有しているのは自分くらいなのではないだろうか。  復活してしまったということは、どのみち何処かでぶつかることがある。日本だけで満足することなどないだろうから、国外逃亡も無意味だ。地球外ならわからないが、どの程度の猶予があるかもわからないし、それ以前にここを離れて意味のある人生が送れるとも思えない。  それならば、やってやろう。
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