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そう決意し、立ち上がった。
しかし、帰り支度を整えながらもまたふと思う。
「どうやって早退しよう」
それに、魔王退治となれば1日2日ではきっと済まないだろう。すぐに魔王の元には辿り着けないだろうし、その過程には恐らく数多の魔物も潜んでいる。
新入社員だったという遠慮や、容易に認めてはくれなさそうな職場の雰囲気もあり、有休は殆どまるまる残っている。とはいえ、フルに使用したとしても2週間分ほどしかない。それに有休の申請は、出来れば使用する日の2週間以上前と言われている。
病欠で1日2日休むのなら多少大目に見てくれそうだが、今日いきなり行って「2週間休ませてください」というのが通るのかどうか・・・。
通らないだろう。
間違いない。
とはいえ、それで「はいそうですか」とは言えない。
かといって「魔王が復活したんです!」なんて話したら、そのまんま病院にでも連れて行かれかねない。それはそれで一つの手段かもしれないが、個人的にはこれから本当に魔王退治に行くのに気持ちを削がれたくはなかった。
となると、残された手段は一つしかない。
「部長。今までお世話になりました。本日付で、退職いたします」
幸いデスクには殆ど私物は持ち込んでいないので、片付けはすぐに済んだ。鞄を持って深々と頭を下げる自分を見ながら、部長はどんな表情をしているのだろう。
床を見ながら、周りの視線も感じた。
「え・・・、あ・・・。伊藤君?」
どうにか搾り出したであろうその言葉に背を向け、俺は一直線に出口を目指した。
帰宅してからまず、出掛ける為の準備を整えた。
戦闘だから動き易い格好の方が良いが、ジャージや普通の私服ではやはり防御に難がある。
色々考えた結果、自分にとっては動き易く、慣れた格好でもある剣道着と防具を身に付ける事にした。
頭は心配だが、視界が悪くなるデメリットの方が大きいので面は付けず、小手も外す。
たれの名札は恥ずかしいので、これも外した。
一応準備は整ったが、また改めて考える。
お守りは災いの証だが、どうやったら魔王の元に行けるのか。
親にケータイで訊こうとも思ったが、言い伝えのことしか知らないだろうからきっと無駄だろう。
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