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そこで、ふと、ベランダ中に漂う煙草の臭いが鼻腔を刺激し、京子は眉間に皺を寄せた。
狭いベランダは京子の歩幅2歩程で柵へと辿り着き、柵に両手を乗せて軽く身を乗り出した京子は、アパートの右隣りの部屋のベランダを覗き込んだ。
「あー! 須々木さんまーた煙草吸ってるー」
年は、20歳位だろうか。
今時の若者、といった、黒髪に金のメッシュを入れた男が、ベランダの策に腕を乗せ、煙草を吸っていた。
その、ごつごつと節の浮く長い指に挟まれた煙草から、薄白い煙が流れていた。
声をかけた京子の方を見やると、ん、と小さく声を漏らしてから、その薄い唇と眼に弧を描き、にこりと微笑ってから、
「おはよーございます」
挨拶した。
すごく、ナイススマイルとしか言い様の無い笑顔を向けられた基本的に単純な京子は、その真ん丸な眼をきゅう、と細めると、満面の笑みを浮かべ、
「おはよーございます!」
やはり、挨拶した。
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