第一章

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 私は、こらっ……と言いかけ、飲み込んだ。良いことを思いついたのだ。  弟は、相変わらず跳ねている。どうやら、小指をぶつけたみたい。顔を歪めながら片足を大切そうに抱え、けんけんしていた。 なんだか、自分の方が痛いってアピールしているみたいで、ムカつく。ひっぱたきたい。 私はそんな思いを巡らせながら、弟の痛みが引くのを待った。  まだズキズキする。 頭を触るとタンコブができてた。う~と、予想以上の痛みと怒りから、私はうなる。 しばらくして、痛みが引いたのか弟は歩こうとした。 弟があまりに遅いから、私の欲望と妄想は「ひっぱたきたい」から段々とエスカレートしていき、お母さんとお父さんが聞いたら卒倒するような殺人計画まで出来てしまった。……もちろん、実行はしないけど。 私は声も出さず静かにしているので、弟は寝ていると思っているはず。 弟が、ゆっくりと遠ざかった。 腰を低くして静かに弟の背後に着き、チャンスをうかがう。 弟が蛍光灯をつけようと上を向いて糸を探した。 今だ!私は心の中で叫び、弟がさっきまで痛そうに抱えていた小指に握り拳を落とした。グニッと、なんとも言えない感触。 ぎゃっ!と、小さな悲鳴があがった。弟は膝から崩れ、畳の上に転がる。 私は満足して、コタツに戻った。 姿は見えないけど弟は、んーんーと、口にガムテープを貼られ監禁された人のような声をあげている。 うるさい、バカ志。私はそこまでやって無い。 月は雲に隠れたのか、部屋は真っ暗になった。 私は寝っ転がって暗闇におもいっきり手を伸ばす。コツンと固い物が指に当たった。 あった、あった……枕。 私は日記をたぐり寄せ、頭に敷く。 何も見えない暗闇の中、弟の声が消える前に私は深い眠りについた。 「バカ姉」 翌朝、目をさますと弟が言った第一声目の言葉がこれ。 いつもダルい私は言い返す気力もなく、ただ、ただ、コタツに入りながらぐでぇーとするだけだ。 「アホ姉、サル姉、デブ姉、ブス姉」 プチっ。何かが切れた。 最後の二つは、さすがの私も頭にきた。 気だるく弟の顔を見て「バカ志」と、やる気の無い声と眠そうな目で返す。弟の顔から怒りが消え、驚きの表情になった。 やる気のない私の怒りメーターがぐんぐん減り、0になる。 これで満足。
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