Chapter1

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「むしろ見ているこっちが暑苦しい…」 「は、はい?」 「あ、いえいえ、何でもないです」 キョトンとするルネ先生に、慌てて両手を振って誤魔化す。 危ない危ない…いつものことながら、つい本音が出てしまった。 これだから正直者は困る。 先生は軽く小首を傾げていたが、大して気にした様子もなく、再び説明に入った。 「とりあえずこれまで通り、朝昼夕方の散歩は、毎日欠かさず行ってください。病院内を彷徨くだけでも、それなりのリハビリになりますので」 「はい。今日もこのあと、蜜柑ちゃんと歩き回る予定なんで。………とりあえず、早くこの蒸し風呂から脱出させてください」 「あはは、それならオーケーです。あ、病室へ戻る前に、何か冷たい飲み物でも奢りますよ。…さすがにこの部屋は暑い……」 「え、いいんですか!?」 思わぬ天から施しに、自然と口元が綻ぶ。 助かった…久しぶりに水とコーラ以外の飲み物が口にできる。 いい加減、もう炭酸は懲り懲りだ。 たまには果汁100%のりんごジュースが飲みたい。 嗚呼、今は愛しきあの味よ。 ベッド脇に積まれた、冷蔵庫へはいれなかったコーラ缶の山を思い出しながら、『ハリネズミでも、ルネ先生はいい人だ』と、僕は感謝し――――― 「ええ……キミのお姉さんを初めとする先輩方九人に、緑茶やらコーヒーやらを買ってこいと、先ほど命じられましたから…。小沢君一人が増えたところで何ともありません、あははは…………」 その認識を、即座にレーザービーム砲で粉々に抹消した。 そういえばこの人、姉貴たちナースの使いっぱしりにされてたんだっけ…。 てか、九人分の飲み物って……ここの自販機、全部紙コップ式のだったような……。 半泣きのルネ先生の表情が、あまりにも哀れすぎて泣けてきたので、とりあえず僕は、パシリの手伝いを申し出ることにしておいた。 ……正直者でなくても、損はするものらしい。  
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