Chapter1

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僕は蜜柑ちゃんの小さな手を引きながら、患者や看護師さんが行き来する廊下を、B棟と中央センターを繋ぐ連絡橋へ向かい、ゆっくりと歩いていく。 病院特有の消毒液みたいな匂いも、今ではすっかり慣れてしまい、全然気にならなくなっていた。 しかし何度歩いても思うのだが、この病院の異常な広さには、散歩の度に驚かされる。 ここ十並総合病院は、かなりの大規模な敷地を誇り、建物も五つに分かれていて、相当複雑な造りをしている。 まず、僕らが今いる建物でもある、この病院の中心に位置する中央センター。 この建物の一階が、眼科と耳鼻科、産婦人科、内科と外科といった、外来の受付や待合室のあるエントランス。非常階段を除いて外に出られる、唯一の出入り口。 二階と三階はそれらの診療室。そこから上のフロアは、全て集中治療室や手術室、あとは院内全てのデータを管理する、コンピュータールームなどがあるらしいのだが、立ち入り禁止区域にされているので直接行ったことはない。 その中央センターの一階と三階、そして一般の人間は利用できない五階には、四方にある建物に、それぞれに連絡橋が伸びている。 中央センターを取り囲む形で、四角い敷地の四隅に位置する建物。 それらが、僕ら患者の病棟であるA棟~D棟だ。 どの棟も基本的には同じ造りをしており、一階から五階まで、病室がズラリと並んでいる。 重病の患者が入院するD棟以外は、基本的に出入り自由だが、自分の病棟から他の建物へ行く場合は、必ず連絡橋を渡り、中央センターを経由していく必要がある。 一応非常階段はあるものの、それはあくまで“非常用”のものであって、普段は利用することできない。 患者が脱走しないよう、考慮した結果なのだろう。 要するに、コッソリ抜け出すことは絶対にできないワケだ。 そんなめちゃくちゃ広い病院の中から、蜜柑ちゃんがお散歩コースを選択し、僕と一緒に三十分ほど歩く。 運動不足の僕にとっては、それだけでもなかなか厳しかったりする。
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