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「だけど、ホント不思議だよなぁ…」
オレンジジュースを欲しがる蜜柑ちゃんを、自販機の前から無理やり引き剥がし、誰に言うでもなくそっと呟く。
自分の体を見下ろす。
ルネ先生に言われた通り、確かに傷跡は残るかもしれない。
だが、それでも僕は、何の問題もなく、今まで通り生きているのだ。
銃弾六発、しかも全弾クリティカルヒットというオプション付き。
そんな攻撃を浴びて生き残るなど、映画の中でも極めて稀だ。
我ながら、いったいどんなゴキブリ並の生命力を秘めているのだろうと、本気で疑いたくなる。
つい一ヶ月前に、生死の境目をさ迷っていただなんて、とてもじゃないが信じられない。
もしや僕の体内には、何か隠された力が眠っているとか?
いや……漫画のキャラクターじゃあるまいし、それはないだろう。
医者たちも医学的に有り得ない現象だとか騒いでいたし、今更ながら、少しばかり気になってきた。
「…たすく兄ちゃん?具合、悪いの?」
「へ?」
見ると、今まで騒がしかった蜜柑ちゃんが、心配そうに僕を見上げている。
どうやら、僕は相当真剣な顔をしていたらしい。
「ううん、ゴメン、何でもないんだ。ほら、そろそろ帰ろ?」
「…?うん?」
『blood』のバイトで習得した営業スマイルを浮かべ、強引に明るい空気に持っていく。
そうだ、助かったのだから別にどうでもいいじゃないか。
深く考えるのは止めよう、入院中のネガティブ思考はよくないらしいし。ツッコミはなしだ、うん。
頭上に?マークを出現させている蜜柑ちゃんの手を引き、僕は真っ白な廊下を歩き出した。
天井と左右の壁がガラス張りになった(無論強化ガラス)、B棟への連絡橋まで戻り、渡る。
僕らの病室は、四階の一番端なので、この橋を渡った先にある階段を上がれば、すぐに見えるのだ。
だから―――――
「あああああああああああっ!!!」
―――なんて叫び声が、その階段を上っているときに聞こえてきた日には、僕らの病室でいったい何が起きたのかが、一発で分かる。
「「…………」」
僕と蜜柑ちゃんは顔を見合わせ、変態的な奇声を上げる主の許へ、駆け足で向かうことにした。
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