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「ったく……逃げ足だけは一人前ってか?相変わらずイケてねぇ、イケてねぇよ」
実にイケてない、と。
ああして逃げ回られては、こちらとしても戦法を変えざるを得なくなるだろうが。
男は、そんな苛立ちを込めながら呟いた。
そう。
彼の操る鉄球は、奴を捕らえてはいない。
敵である光喰らいは、あの鉄球連打の嵐の中を、なんと、最小限の足捌きで躱し続けているのだ。
あのスピードを前にしては、こちらの攻撃では捕らえきれず、埒があかない。全くもって腹立たしい。
青髪の狩人は苛立ちながら鎖を引き、発動中の能力を解除する。
鉄球と鎖は、忽ちのうちに、闇に溶けるようにして消滅した。
100メートルほど先で、致命傷を避けるべく回避運動を続けていた、光喰らいの動きが止まる。
月明かりを背にしているので、顔の形は判らない。
本来ならば、無数の街灯の明かりが橋を照らしているのだが、他でもない自分自身が振り回した鉄球によって、自分たちのいる周囲の街灯は、全て叩き折ってしまったのだ。
まあ、どうせあの忌まわしい奴の事だ。下卑た薄ら笑いを浮かべていることだろう。
青髪の狩人は内心でそう独白し、眼前のシルエットを見据える。
細身の手に握られた、身の丈二メートルほどの長槍。
過去に幾度と交戦した経験から、あれが奴の唯一の武器であることは、既に判明していた。
そして、奴の息がかなり上がってきている事も、無論見逃したりはしない。
最小限とは言え、あれだけ動き続けたのだ、当然の結果である。
「こういうイケてねぇ戦法は、俺の主義じゃあないんだが……致し方ねぇ、恨むなよ」
『fast ability :黒き真珠の贈り物(ブラックテロリスト):』
青髪の狩人は精神を軽く集中させ、再び能力を発動。鋼の鎖に繋がれた、黒光りする鉄球を呼び出した。
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