Chapter1

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故に、こうして逃げに徹された場合、勝負がつかない。 何故なら、こちらとしても奴を逃すつもりなど毛頭なく、しかし『黒き真珠の贈り物』では、奴のスピードを捕らえきれないがために、このような膠着状態が続いてしまう。 そして最終的には、巧いこと隙を突かれ行方を眩まされる……といったパターンに持ち込まれるワケだ。 「ソイツが、今まで通りの状況なら、な」 間一髪のところで身を屈めた奴の頭上を、黒い鉄球が通過していく。 ジャラジャラ音を響かせながら鎖を引き戻し、すかさず二撃、三撃と連打を叩き込む。 その暴れ球の猛攻を、ギリギリ紙一重のタイミングで、何とか回避していく敵の速度は、先ほどとは比べ物にならないほどに落ちている。 疲弊しているのが明らかだった。 ―――そう。 不本意ながら、これこそが彼の狙い。 此処、弥生大橋は、歩道と車道を隔てる手すり以外には何の遮蔽物も存在しない。 ただ、一直線に道が伸びているだけだ。背を向けた時点で、敗北が確定する。 橋から飛び降りたところで、その下に広がるのは真っ暗な海。 万が一飛び込まれたとしても、浮き上がってきたところを狙い撃ちすれば、それで終わりである。 よって、奴は体力をすり減らしながらも、ひたすら鉄球を躱し続けるしかない。 加えて、奴の体力は既に消耗仕切っている。 時間にして1分も経たぬうちに、スタミナ切れが訪れるだろう。 そこを、討つ。 「ハッ、我ながら本当にイケてねぇ作戦だ。だが―――」 鎖に回転を加え、鉄球の威力を増大させる。 次の一手で詰みだ。 「イケてねぇお前のような輩には、こんな戦法で叩き潰すのも、悪かねぇだろ?」
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