490人が本棚に入れています
本棚に追加
故に、こうして逃げに徹された場合、勝負がつかない。
何故なら、こちらとしても奴を逃すつもりなど毛頭なく、しかし『黒き真珠の贈り物』では、奴のスピードを捕らえきれないがために、このような膠着状態が続いてしまう。
そして最終的には、巧いこと隙を突かれ行方を眩まされる……といったパターンに持ち込まれるワケだ。
「ソイツが、今まで通りの状況なら、な」
間一髪のところで身を屈めた奴の頭上を、黒い鉄球が通過していく。
ジャラジャラ音を響かせながら鎖を引き戻し、すかさず二撃、三撃と連打を叩き込む。
その暴れ球の猛攻を、ギリギリ紙一重のタイミングで、何とか回避していく敵の速度は、先ほどとは比べ物にならないほどに落ちている。
疲弊しているのが明らかだった。
―――そう。
不本意ながら、これこそが彼の狙い。
此処、弥生大橋は、歩道と車道を隔てる手すり以外には何の遮蔽物も存在しない。
ただ、一直線に道が伸びているだけだ。背を向けた時点で、敗北が確定する。
橋から飛び降りたところで、その下に広がるのは真っ暗な海。
万が一飛び込まれたとしても、浮き上がってきたところを狙い撃ちすれば、それで終わりである。
よって、奴は体力をすり減らしながらも、ひたすら鉄球を躱し続けるしかない。
加えて、奴の体力は既に消耗仕切っている。
時間にして1分も経たぬうちに、スタミナ切れが訪れるだろう。
そこを、討つ。
「ハッ、我ながら本当にイケてねぇ作戦だ。だが―――」
鎖に回転を加え、鉄球の威力を増大させる。
次の一手で詰みだ。
「イケてねぇお前のような輩には、こんな戦法で叩き潰すのも、悪かねぇだろ?」
最初のコメントを投稿しよう!