Chapter2

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そう。 毎日のように、蜜柑ちゃんの許を訪れる護さん。 彼女と一緒の病室になってから三週間ほど経つが、護さん以外がお見舞いに来ているのを、僕は一度も見た覚えがなかったのだ。 ミカンを剥いていた彼女の手が、僕の言葉に反応するように、ピクリと止まる。 いつも明るい黒髪少女の顔が、ほんの少しだけ曇った気がした。 ……訊いちゃいけない質問だったのかな? もしかしたら、無神経な質問だったのかもしれない。 僅かな不安に駆られたが、しかし、そんな彼女の表情は、見間違いかと思うくらいに一瞬で消えた。 蜜柑ちゃんは、すぐにいつもの無邪気な表情に戻り、口を開いた。 「お父さんとお母さんは、みかんがもう少し小さいトキに、どこかへいなくなっちゃったの。だから、今はいないの」 「……いなく、なった…?」 どういう意味だろう? 失踪してしまった、ということだろうか? 「じゃあ、蜜柑ちゃんの家族は……」 「まもる兄ちゃん一人だけなの。でも、みかんは全然寂しくないの!」 嬉しそうに護さんの名前を告げる蜜柑ちゃん。 言い終わると、ニコニコと幸せそうに微笑みながら、再びミカンの皮むきを始めた。 頭の中に渦巻く疑問を、自分のベッドに座り直しながら整理する。 蜜柑ちゃんを質問責めにするのは、さすがに少し憚れたからだ。 まず、理由はよく判らないが、とりあえず蜜柑ちゃんに両親はいない。 それは、兄である護さんも同様である。 次に、先ほども思ったことだが、蜜柑ちゃんのお見舞いには、護さん以外が来ているのを見た記憶がない。 知り合いにこんな小さな子が入院していれば、一回や二回くらい見舞い客が訪れるのが普通だ。 それがない、ということは、彼女と直接繋がりのある家族、及び知り合いは、護さんだけということになる。 つまり、彼らに親戚などの身寄りはおらず、本当に二人だけという結論に行き着いてしまう。 じゃあ護さん、生活費や蜜柑ちゃんの入院費を、まさか自分一人の収入だけで賄っているのか?
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