Chapter2

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いつも変態的でハイテンションな、護さんを思い浮かべる。 そういえば彼は、仕事帰りのサラリーマンみたいにいつもスーツ姿だった。 あれはファッションなどではなく、本当に仕事帰りに此処へ寄っているからこその服装なのではないだろうか。 以前尋ねたとき、護さんの年齢は十九だと聞いた。 そして蜜柑ちゃんは、生まれてからずっと入院生活の日々を送っているという。 では、高校を卒業したばかりの若者だというにも拘わらず、護さんはそんな状況下での生活を―――――― 「見てみてなの、たすく兄ちゃん!!」 ―――と。 真横から聞こえてきた元気な声によって、深く浸かっていた僕の思考が、現実に引き戻された。 目の前には、いつの間にか見舞い客用の丸イスに腰掛けた、蜜柑ちゃん姿があった。 「ほらほら、皮むき!とっても大成功なの!」 オレンジ色の皮を指で摘み、見せびらかすようにプラプラ揺らす蜜柑ちゃん。 皮は一部も千切れることなく、そのままカポッと外したみたいに、見事に繋がって剥けていた。 「へぇ……蜜柑ちゃんて上手なんだね」 素直に賞賛の言葉を送ってあげると、蜜柑ちゃんは、照れくさそうに口元をほころばせた。 「エヘヘ、当然なの!皮むきは、みかんの得意技なの!!」 自慢気にそう言って、ピンクのパジャマに包まれたぺたんこな胸を張る蜜柑ちゃん。 綺麗にむけた蜜柑を口に放り込み、もぐもぐと可愛らしく咀嚼する。 その仕草に、両親を失った寂しさなどは感じられず、それはとても純粋で幸せそうな笑顔だった。 心温まる光景に、自然と僕の口元も、笑みをかたどっていた。
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