Chapter2

8/35
前へ
/382ページ
次へ
健介が僕の病室を訪れたのは、蜜柑ちゃんとお昼の散歩を終えてすぐの事だった。 なんでも、最近学生から大人気のパン屋が市街地にあるとかで、リハビリがてら行ってみないかと誘われたのだ。 本当は蜜柑ちゃんも連れてきてあげたかったのだが、残念ながら彼女の担当医師から、外出許可が下りなかった。 すると、今度は蜜柑ちゃんが僕の外出を許してくれなくなってしまい、二十分にも渡る交渉の結果、メロンパンとクリームパンをお土産に献上することで、何とか許可を頂けたのだ。 そんな討論の末に、こうして僕は、健介と一緒に市街地まで出てきた訳である。 市街地は、食事に来た家族連れやら、友人や恋人同士で遊びに来た若者やらでごった返しており、ハッキリ言って身動きがとれないほどに混み合っていた。 …が、しかし、それでも幾分かはマシだった。 何故なら、歩を進める度、僕の方を見た一般人たちが………正確には、僕の隣にいる人物に恐怖した人間たちが、逃げるように道を空けてくれるからだ。 無理もない。 僕の一歩前を先導する、百八十センチを優に超える長身の人間……榎本健介を目やる。 極道の方も一撃で睨み殺せそうなくらいに厳つい顔。 耳やら鼻やら、顔のあちこちにはジャラジャラとピアスがくっついており、短く刈り込んだ髪は、派手に染め上げた金髪。 筋肉質でオマケに目つきもかなり悪い、まるで絵に描いたような“不良”。 そんな怪物に畏怖の念を抱くのは、人間としての本能だ、恥じることではない。 ただ、人は見た目によらないという概念が、これほど当てはまる者はいないくらいに、中身は真面目なのだが。 健介を見た小さな女の子が、お父様らしき男性に泣きついている光景に、僕は強面の幼なじみに対して、同情せずにはいられなかった。 健介、せめてピアスは耳だけにしようよ…。
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

490人が本棚に入れています
本棚に追加