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命の危機ってのは、何の予告もなく突然訪れる。
そりゃもう容赦なく、英単語の抜き打ちテストよりも唐突に。
白いベッドの上で、反射的に身を仰け反らせた僕の眼前を、銀色に光り輝く果物ナイフが通過していく。
恐るべき威力を持って飛来したそれは、プロの投擲するダーツの矢のごとく、「ズドッ」と破壊力大サービスな音を立て、メチャクチャ硬い筈の壁に突き刺さった。
額に冷や汗が滲む。心拍数が尋常じゃない。
というか―――――
「有り得ないっ!このナイフ、紛れもない不良品だよ!?ハッ、入院患者を暗殺しようったって、この奈央サマの目はそう簡単に誤魔化せまいぃぃ!」
「自分の犯行を誤魔化すヤツだけには言われたくないだろうね果物ナイフも!!って、あと一秒遅かったら、僕のこめかみが芸術的に貫かれてたよ!?」
林檎の皮むきをしていて、果物ナイフを患者に向かって滑らせる……もとい投擲するこ奴自体が、既に尋常じゃねぇ。
冗談抜きで“こめかみを果物ナイフで貫かれた少年”というオブジェが完成するところだった。
心臓が未だに激しくダンス中。
ベッド脇で、ジャガイモみたいに凸凹になった林檎を片手に、苦しすぎる言い訳をする幼なじみへ、僕は非難と恐怖をミックスさせた視線を投げつける。
「ご、誤魔化してなんかないよ!?“上手に皮を切れ~”っていう私のエナジーを拒絶したナイフが悪いんだもん!!因みにスペルはE・N・E・R・G・Y!エネルギーって読んじゃダメだか―――」
「C・R・A・Z・Y!!素直に謝れ、クレイジープリンセス・ナオ!!」
腹の底から叫びつつ、コイツに皮むきをさせてしまった事を、今更ながら後悔する。
奈央の好意を受け入れた時点で、死亡フラグであることに気づくべきだった。
というか、入院患者である僕が、ナニユエ命の危機に晒されているんだろうか……?
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