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薄いピンクの壁紙が印象的な部屋の壁にかけてある真新しい制服。これは今日から始まる新生活のいわば“戦闘服”だ。小鳥のさえずりと春の穏やかな暖かさが此処──蓮見家を包んでいた。
“ピンポーン…”
そんな蓮見家の呼び鈴を押してみる。しかし誰も出てくる気配はなかった。ひょこっと門から中の様子を伺おうと身を乗り出してみるが、中は電気もついておらず薄いカーテンがひかれたままだった。
おかしい…いつもならとっくに起きてるハズの時間なのに。
気を取り直して再度呼び鈴を鳴らしてみるが中から返事すらなかった。少し大きめの2階建ての蓮見家は外観はピンクの壁に包まれた洋館だ。しかもその周りを色鮮やかな花々が咲いており、いわゆる“少女趣味”の家。出来るなら籠城するのは避けたい。
が、今日は大切な入学式。最初が肝心だとめちゃめちゃ気合いを入れていた“彼女”を置いてくわけにもいかない。
「一応鳴らしたよな?…よしっ」
意を決して玄関のドアに手をかけた。しかしドアはあっさりと開いた。なぜだか鍵が掛かっていない。
「不用心過ぎるだろ!」
一人ツッコミを入れるとお邪魔します、と一言告げて中へと足を進めた。外が少女趣味なら中も少女趣味だ。アンティークな部屋造り、置物は可愛らしい熊のぬいぐるみ。やはり入るのに気が退ける。小さな溜め息を漏らしてリビングへの通路を抜けた。
当然、リビングに灯りはついておらず至って静かだった。‥はずだった。
「くー…」
「何でこんなトコで寝てるんだ‥?」
ソファに横たわって安らかな寝息を漏らして小さな子供のように眠る“女性”がいた。
「おばさーん‥おばさん、蛍おばさーん?」
「すぅ‥すぅ…」
「ほ・た・る・さんっ!」
「にゃっ?」
耳元で叫んでみるとドタンッと派手な音を立ててその“女性”はリビングの床に落ちた。
「いたたた…あれれ?蓮ちゃんだぁ~」
「高校生になってまでその呼び方スか?」
「ぅはよぉ~♪」
「人の話聞かない所は母娘そっくりッスね?何でこんなトコで寝てたんスか?」
「えっとぉ‥いつも通りに起きて…新聞を取って~‥あ、今日はすっごくあったかくていいお天気よねぇ♪最近寒かったからあたし嬉しくてってね~♪小鳥さんの鳴き声とかお花の匂いとか~‥つい…また眠たくなっちゃって~‥」
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