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ふわふわの綿菓子のようなウェーブをなびかせて蛍は真っ白なストールを羽織った。小柄でピンク色のネグリジェを着てリビングを歩く姿はとても母親には見えない。マイペースな蛍は自分の失敗談を話ながらキッチンに行き、やかんをコンロにかけていた。ご丁寧にご機嫌な鼻歌付きで。
「つまり…暖かさから眠気に襲われてうっかり寝たって事ッスか?」
「ぴんぽーん♪名探偵みたいだね、蓮ちゃん♪」
「だから“ちゃん”はやめてって…あー‥もういいや、夏奈は?」
「まだ夢の中だと思うから~‥起こしてあげて?」
その間にコーヒー作っちゃうから、ときゃるんっと言わんばかりの無邪気な笑顔で蛍は蓮に言い放った。この人は年頃という言葉を理解しているのだろうか。いくら小さい頃から幼馴染みとして10年近く一緒に過ごしてきたが蓮も普通の15歳の健全な男子だ。
好きな子の部屋に本人に無許可で入るなんて人生の中でやりたい冒険の1つ。だがそんな事したら死ぬほど嫌われるのがオチだ。
大丈夫、似たような状況を毎度の如く経験してる。俺は決して動揺してない、動揺なんてしてない。と蓮は自分に言い聞かせた。
「蓮ちゃん、かなちゃんの寝顔がいくらキュートだからって襲っちゃダメよ?」
『ガンッ!』
その可愛らしいまるで人形のような母親から意外な発言に蓮は柱に頭からぶつかるという少女漫画のお約束のようなアクシデントを起こしていた。
「おばさん…な、何でそ、そんな発言っ?」
「おばさんっていうの禁止ーっ!ちゃんと“蛍ちゃん”か“蛍さん”って呼びなさいっ」
「ほ‥蛍、さん…」
「よろしい♪だってね、かなちゃんたら普段はいーっつも強がってて、警戒が強いでしょ?なのに‥寝顔はすっっごく可愛いの♪これはきっと男の子にはぐっ!って来るものよ?実際かなちゃん可愛いでしょ?」
「そりゃあ…し‥知ってますけど…?」
「さすが私の自慢の娘♪私に似てて良かったぁ~あのまつ毛の長さとか勝気そうな目は柊平さんにそっくりで中性的なんだけど口元とか鼻周りは私にそっくり♪やっぱり遺伝ってスゴいわ~っ‥」
「おーい…」
瞳をキラキラさせて蛍はうっとりと話だす。これはいわばノロケとも自慢話とも言うだろう。長くなりそうだし、きっと自分の世界に入ってるだろうと思った蓮はそそくさとリビングを後にして2階へ向かった。
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