Prologe.“入学式”

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(確かに夏奈は可愛い。ああ可愛いさ、可愛いとも、昔から!──って保護者がいるのに襲うなんて出来るか!あれだけ溺愛してるんだ、万が一何かやったとしたら俺の明日がないかもしれない…) 階段を上りながら蓮は頭の中で悶絶していた。蛍は確かに幼い女の子のようでよく言うなら天真爛漫、悪く言うなら単純明快な性格で男女問わず可愛いと思われる容姿である。だが、そんな愛らしい容姿とは裏腹に結構腹黒い上に普段大人しい、というか天然だから本気で怒る時は流水かの如く静かに怒る。笑っているのにバックに黒い“何か”がいるかのように感じさせて近付いてくるから精神的に追い詰められそうになる。 そんな“母親”である蛍の事だ。溺愛して止まない夏奈に何かした暁には何をされるかわかったもんじゃない。しかも家族ぐるみの付き合いだったためかいつも会う度に脅されている気がしてしまう。蛍の前だとどうも小心者になってしまうのだった。よって夏奈への告白などまったく出来ず、片想い歴10年以上を本日も目下更新中なわけだ。 そうこうしている内に“かなちゃんのお部屋♪”と可愛らしいプレートがもう目の前にあった。何回もこの家に来ているせいか覚えてしまっているのが悲しい幼馴染みの性だ。 「…朝倉蓮、いざ出陣!」 変な気合いを入れて蓮はノックもせずにガチャッと豪快に彼女の部屋のドアを開けた。しかしここで予想外な事があった。夏奈は“夢の中”ではなく、すでに“現実”にいた。 しかも大胆にも新しい制服のブラウス1枚のみの恰好で、下は生足がさらされていた。突然開いたドアにびっくりして振り返った夏奈と寝ているだろうと思い込んで堂々と部屋に入ってきた蓮。この後は当然予想通りの展開だ。 「き、ききっ…」 「待て、夏奈!俺は蛍さんに頼まれてだな…決して寝顔を拝みに‥じゃなくって!」 「きゃああぁああっ!!」 パニックになった夏奈による悲鳴は蓮見家に浸透した。当然こんな悲鳴が聴こえたからには蛍が黙ってるわけがない。その数秒後に例の“冷えた微笑み”で蛍は蓮に静かに怒って気配なく現れた。 「蓮ちゃん‥かなちゃんに何したのかなぁ~…?」 「えっ?や、その…な、何もしてないっ」 「何で何もしていのに悲鳴が聴こえるのかしら~…?」 「そ、それはっ」 「──家の外で待ってナサイ?」 「は、はいぃっ!」
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