Prologe.“入学式”

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蓮は情けない声を上げて蓮見家の門前まで駿足で出た。小心者の典型である。しかしちゃっかり見えた夏奈の美脚を瞼の裏に焼き付けており、思わず手を合わせて“ごちそーさま”と心の奥底で呟いた。中で何があるのか知らずに。 「アイツぜったい許さない…っ‥」 「まぁまぁかなちゃん、蓮ちゃんとは昔一緒にお風呂入ってたでしょ?」 「そんな記憶がないに等しい事はどーでもいいのよっ!問題はアイツがあたしの部屋にノックも無しに入って来た事!もうお婿が取れないじゃないっ」 「あれ?お婿さんなの?てっきりかなちゃんはお嫁に行くかと思ってた~…」 「何で?あたしがお嫁に行ったらママがこの家に1人になっちゃうでしょ?」 「かなちゃん♪」 「ママ♪」 二人はぎゅうっと抱き合って母娘の愛を確かめていた。とりあえず二人の頭の中にあった蓮の“のぞき疑惑”はさっぱりなくなったわけだ。 「あらあら…今日入学式じゃなかった?」 「やっば…すっかり忘れてた‥」 「蓮ちゃんも外で待ってるだろうし…そろそろ行ってらっしゃいだね♪」 「うんっ、行ってきます♪後で入学式来てね?」 「もっちろん♪気をつけて行ってらっしゃい~」 愛の抱擁を終え蛍に柔らかく微笑まれて見送られた夏奈はにこっと笑うとパタパタと玄関に駆け出した。玄関の前にある靴棚の少し大きな鏡を見て髪を手で整え可愛らしい制服のリボンを直した。 「──よし、完璧っ♪何事も最初が肝心だもんね?」 そう呟くと夏奈は元気良く家から飛び出した。とてもご機嫌な表情で出てきたので蓮もとりあえず姿を見せた夏奈に謝ろうとよっ、と言い掛けた。が、あっさり蓮はスルーされしかも夏奈は高校とは逆の方向へと駆け出していた。 「シカトすんなぁああっ!おい夏奈、そっちに高校はねぇよ!」 「…はぁ?」 やっと夏奈が蓮を振り返った。しかしさっきの楽しそうなご機嫌な表情とはうってかわって心底軽蔑したかのような顔で嫌々な顔だ。 (何で俺って新年度早々に好きな女にこんな顔されてんだよ!あれか、アレなのか?ぜんっぜん脈がないって事なのかっ?) 「高校はどこよ?」 (いやいや、待て待て…落ち着け俺、落ち着くんだ俺!今日はたーまーたーま!夏奈の着替えをのぞっ…じゃなくって事故で見ただけだ‥きっとそれを怒ってるだけだ、そうに違いない!)
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