Prologe.“入学式”

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(だーっ!そんな無防備な笑顔になってんなよっ、またお前に言い寄る野郎が増えるだろうが!) 「ちょっと蓮?早く行かないと遅刻になっちゃうんじゃない?」 「わぁってるよ、今話掛けんな!」 「なっ‥何怒ってんの?」 「自分で考えろ、高校生なら少しは理解しろよ!」 「女の子に怒鳴らないでよ、最低っ!優しい紳士みたいな男になんなきゃアンタなんてモテないんだから!」 「モテたいなんざ思った事ないから結構!」 「あたしの付近にいるならそれなりに努力しなさいよっ!」 「お前に指図される筋合いはない!」 「言ったわねぇっ…小心者の蓮のクセに!」 「俺は別に俺のままで十分だ、上辺なんか作ったってしょうがないだろ!要は中身を磨けばいいだけの話だ!」 「──アンタ何に対して怒ってんのよ!論点がズレてるじゃない!」 「──うっせぇ、自分自身にだよっ…」 ちくしょう、泣きたいぜ‥こんにゃろう。と心の底で蓮は反省していた。いつもそうだ。ちょっとばかしいい雰囲気に持っていこうとするものの、夏奈の持ち前のスペシャル級の鈍感とマイペースのせいでそこまでいけない。それに苛立って自分がコントロール出来ず、我に返るといつの間にか勢いがついて夏奈とケンカ口調で会話をしているのだ。 (今年は大人になる!──もう高校生だもんな、いつまでも幼馴染み楽しんでる場合じゃねぇな…) 今のままでは踏ん切りがつかないのも重々わかっている。小心者だといってもいつまでも幼馴染みで満足してる場合じゃないのだ。他のヤツにかっ拐われないように。俺だけを見ていてくれるように。 ──絶対、振り向かせてみせる。 蓮はぐっと力を込めると颯爽と自転車を走らせた。少し早めのスピードは春の暖かさに少し涼しい風を与えてくれる。 「気持ち~‥ね、立ち乗りしてもいい?」 「いいけど…気をつけろよ?」 「わかってるわかってる♪」 夏奈はいつも嬉しそうだ。意地っ張りで強がりだけど芯がしっかりしてて面倒見も良い。ワガママで自由奔放だけど天真爛漫で、素直だ。そういう所も引っくるめて蓮は夏奈が好きなのだ。 夏奈がこうして“幼馴染み”として自分だけを頼ってくれているのが嬉しい。この状況がこのまま続けばいいと蓮は思いながら高校への道を急いだ。並木道にある桜の花がちらちらと舞って二人を応援しているようだった。
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