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重い目を開けると、
そこには雲ひとつない碧い碧い空。
足元で揺れる青々とした草花たち。
心地よい風が吹き抜ける知らない場所。
僕は何も思い出せなかった。
僕の名前以外何も。
これは悪い夢じゃないか、と思ってもう一度目を閉じた。
するとそこへ一瞬だけ強い風が吹いてきて、
僕はよろめいて後ろへ転んでしまう。
次に目を開けると、
先程と変わらない風景の中に、
いつの間にか白くて大きな木が目の前に立っていた。
その木には限りなく透明に近い赤色をした実がなっていて、
ひとつちぎってみる。
すると、その果実の中に何かの映像がまわりだし、
それに驚いた僕は思わずその果実を地面に落としてしまった。
ただただ目の前の大きな木を不思議そうに眺めていた僕。
そして、気付いた。
木の影から僕を見ていた、僕よりも幼い男のコに。
そのコは優しく微笑んで言った。
「この木は記憶の木だよ。君だけの、ね」
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