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「ボクはシン。この世界の番人。迷いこんできた者を導くのがボクの仕事さ」
そう言ってシンは僕に木の実をちぎってさしだした。
受け取ったその実の中はぎらぎらと銀色の光をまとうものだった。
「それは鏡だよ。それで自分の顔を映してごらん」
言われるままに自分の顔を映してみた。
これが僕?
「ボクは迷いこんできた者を導く者。
だからボクは君を導かなければならない。
この木の記憶と新しい記憶、君はどちらを望む?」
この木のキオクとアタラシイ キオク?
僕はもう一度手をのばして木の実をちぎった。
そこに映る僕だけのキオクというもの。
じいっとそれを見ているうちに何かを思い出せそうな気がした。
大切な何かを。
僕はこのキオクを忘れてはいけないと思った。
この木の事をもっと知りたいと思った。
だから、この木のキオクが欲しいと答えた。
「そうだね。君はもっといろんな事を知らなくてはね」
そう言ってシンが白い木を揺らしはじめると、なっていた実がまるでシャボン玉のようにふわふわと僕のまわりにおちてきて、ひとつずつかすかな音をたててはじけた。
それは、僕が僕になった瞬間だった。
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