第一幕…平和な日、平凡な人

2/6
前へ
/174ページ
次へ
「よう、シン!昼飯食いに行かないか?」 シンはいきなり、隣りから掛けられた声にびっくりして振り向いた。 学校のチャイムが教室中に鳴り響き、昼休みを告げる。教室はざわついていた。 「え…お、俺と?」 「当たり前じゃん」 同じクラスの、ユタカ…といったか。いつもクラスの中心にいて明るく活発、いい意味で目立つ奴だった。 屈託のない笑みを浮かべる彼とは対照的に、シンは少しだけ沈んだ笑顔をする。 もちろん、昼は一緒にしたい――だが。 「おいユタカ、ンな奴シカトしとけよ」 「こっちまで暗くなるぜ!」 げらげらと馬鹿みたいな笑い声が、シンの笑顔をますます沈ませる。 「お前らなぁ…」 「いいよ、ユタカ。俺行くとこあるし。悪い」 「あ、おい、シン――」 ユタカの声をことごとく遮って、シンは弁当箱と読み掛けの本を片手に、教室を足早に出て行く。 「よう、ユタカ、なんであんな奴構うんだよ」 「ん?いや、クラス委員の義務かなぁっと」 「ぎゃははは!仕事熱心~」 「誰もあんな奴本気で相手にしないだろ。誘って損したかな」 (ユタカ――) 閉めた扉越しに聞こえる、学友達の笑い声。 苦々しい思いを拳にこめ、硬く握り締めて、シンは中庭へと向かった。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加