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中庭で一人、弁当を平らげ、図書室へと向かう。この本の返却日は来週だったが、新しい本が読みたかった。
階段を上がり、重い扉を開ける。本のインクの匂いが、シンの心を落ち着かせた。
「あら、シン君。今日は早いのね」
新聞の整理をしていた、50歳くらいの司書はほほ笑んでそう言った。老眼鏡が妙に似合う人だった。
「新刊が出るって聞いたんで」
「情報が早いわねぇ。ほら、あの本棚よ」
「どうも」
本を返却箱の中において、指さされた本棚へ行く。歴史小説、天体、調理書――いろんな本が20冊ほど雑多に並べられている。後3日もすれば、それぞれの本棚へと整理される本達だ。
「…なんだこれ」
『ジェスラータ王国伝』
どうやら、ファンタジー小説のようだ。黒いざらついた皮に、銀の六角星が描かれた装丁。
なんとなくこの本に魅かれて、他の本など目にも入らずすぐ借りた。
その日の午後の授業は、本が読みたくて気になって、先生の話などろくに聞いていなかった。
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