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シンは学校が終わると、早足で家へと帰った。ただいまも言わず自分の部屋へと階段を駈け登り、ブレザーとネクタイを床に放り投げてベッドに横たわる。
重い本だ…何ページあるだろうか。著者は聞いた事もない名前だった。
どうやらこの本は、ジェスラータという国に起きた異変を解決するために、少年が旅に出る――という、ある種ありきたりなものだった。
しかし、その世界の描写は素晴らしく、読んでいるだけで獣たちの毛並みまでも想像できるようだ。
ジェスラータは美しく、挿絵は色とりどりに描かれて、リアリティがあった。特に「ケルオマ」と呼ばれている、闇夜のような漆黒の毛並みを持つ狼――シンは、その獣の強さと造形の美しさにうっとりとした。その獣が出てくるページになると、じっと見入った。
シンは時間を忘れて本に没頭する。
日が落ち、暗くなっても、枕元のライトを点けて読み続けた。
やがてシンが読み疲れて眠りについたのは、日付が変わった頃だった。
そして――シンが17歳になった日でもある。
その日、「何か」が…音を立てて変わろうとしていた――
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