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…ぽォん…
ぽちゃん…ぴちゃん…
(水音…?)
シンは、目を覚ました。
深い暗闇だ。自分の体の感覚もあやふやな中、虚空から落ちて来る水滴と、落ちて広がる波紋がやけにはっきり見える。
ああ、これは夢か――そう認識するのはたやすいが、自分が手を出す事も出来ない「傍観者」のこの状態は、実にもどかしい。
波紋はやがて広まりを広げ、大きくなり、シンの視界までもをゆらゆらと歪めた。酔いそうな気持ちを抑えていると、柔らかな光がシンを包んだ。
真っ白な世界に、ぽつんと浮かぶ、シミのような黒い点は、みるみるうちに巨大になっていった。
「ケルオマ――」
いつの間にか光の中に横たわるシン。そのシンを、灼熱の炎を宿した緋色の瞳が睨み付ける。
何故だろう…不思議と、恐怖心は感じなかった。
そしてケルオマは、真珠のようなきらめきの鋭利な牙をむき出して――
シンの体に食らいついた。
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