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視界一杯に広がった天井が、自宅のリビングだと気づくまでに、数秒。
頭と目だけを動かして辺りを見回し――理解した。
頭の側に刺さった刃物と、その向こうのラグの上で、日差しにきらきらと輝くガラスの欠片。四脚ある食卓の椅子が、三脚倒れて吹き飛んでいた。
そしてキッチンのガスコンロの上に散らばる、本の燃えカス。叩き割られたノートパソコン。
見事なまでの荒廃ぶりに、笑おうとして走った顔の痛みに、眉が寄った。
殴られたことを覚えている。拳は、殴った痛みを記憶している。
できるだけ体に負担をかけないように立ち上がり、洗面所へと向かう。慎重な歩みは遅く、まるで病人か老人のようだった。
バスルームに続く洗面所の、鏡に映った姿に、乾いた笑いが漏れた。頬が鈍く痛む。
唇の端は切れて妙に赤く、右頬は内出血の毒々しい暗紫色に染められていて痛々しい。目の辺りも腫れぼったいし、何より、着ていた白いパーカーに飛び散った本物の血痕が生々しいことこの上ない。
ぼさぼさになった茶髪が妙なところで黒く固まっていたので、ゆっくり腕を動かして触れると、ぱりぱりと髪は解けて、代わりに乾いて粉状になった血が手のひらについた。
つけたままだった時計を見ると、時刻はだいたい午前の11時を指している。
とりあえず湯を沸かしてシャワーを浴びて、着替えて、食事と手当てをして、薬を飲んで。
「学校に行こう」
鹿沼彰人は呟いた。
季節は夏だった。
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