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彼は町の外れに住んでいるため、例え家を何日間留守にしても誰にも気付かれることはありません。
またここ数週間、彼の家を訪ねてきた人もいません。
彼は静かに町の外を目指しました。
するといつもは誰一人としていない裏路地に見慣れない一人の老人がいることに気付きました。
長らく他人と話をしていない彼は、顔を伏せながら老人の前を通ろうとしました。
するとどうでしょう。老人は彼に笑顔で話し掛けてきました。
/ ,'з 「そこの方、こんにちは」
彼は戸惑いました。
それは覇気のない顔をし、誰よりも貧乏くじを引き当てそうな雰囲気を持った自分に自信がないからです。
そしてコミュニケーションが苦手だからです。
彼は恐る恐る、老人の足元を見たままに答えました。
( ^ω^) 「……こんにちは」
その視線は、彼の履いた小綺麗な革靴と、自分の履いた小汚い運動靴とを行ったり来たり、一点に定まることなく忙しなく動いていました。
普通の人ならば、こんな自分を暗い奴だ、陰気な奴だ、と思うだろう。そう考えると、彼は握っている拳にじっとりと汗をかきました。
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