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(さっきの私の怒りと覚悟はなんだったんだ)
心の中でそんなことを思いながら、さっきまで対峙していた奴を見た。
こちらに敵意がないのを感じたのか、剣を腰に差してそのまま背を向け立ち去ろうとするが――
「グェッ!」
私が慌てて襟首掴んだので、奴は女にあるまじき奇怪な声を上げて止まった。
否、止められた。
「ゴホッ!ゴホッ!なっ、何すんだよ!このアマァ!」
苦しそうに咳をした後、奴はジトッと私を睨みながら、どっかのチンピラの様なセリフを吐いた。
私は気にせず、満面の黒い笑顔で奴に告げる。
「超一級の賞金首を目の前でホイホイ見逃す訳ないだろぅ?」
――この後、結局奴に逃げられ、私と奴はその後も何度か合間見える。
しかし、毎回最終的に私が押され負けそうになると、その前に向こうが逃走するといういわゆる勝ち逃げ。
よって、負けが曖昧に引き分けにされているだけの引き分けとされた。
結果は、半年の間で五戦無勝無敗五引き分け。
結局、決着が付かぬまま私が前線から離れ、当時まだ4歳の姫の護衛の任に移ってしまった。
それ以来十四年間、私は奴に遇うことはなかった。
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