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奴は、構えていなかった全くの無防備な状態だったはず。
なのに、手に持っていた剣を瞬時に上げ、その柄で私が放った必殺の一閃を受け止めたのだ。
決してその動きが見えなかった訳ではない。
だが、その速さは国内一の速さを誇る私の斬撃と互角、いや僅かに上回っている。
更に奴は一太刀、私の剣を受けただけでその長さも看破したのだ。
驚愕のあまりほんの一瞬固まったが、すぐに我に返り後ろへ跳躍し奴と距離をとった。
奴はなおも言葉を続けた。
「突きにも斬るにも適したいい剣だ。扱い手の腕もいい。コンパクトで鋭いいいスイングをしている。斬撃の重さも速さも申し分ない。達人といって差し支えないレベルだ。……先程の斬撃、俺でも正直かなり危なかった」
と奴は私の一閃に感嘆しながら、かいてもいない汗を拭った。
私は悟る。
こいつは、世界最速と云われ、国内最強世界で五本の指に入る私より少なくとも一枚以上、上手であると――。
しかし、私は退けない。
死んでいった部下達と自分の誇りのためにも。
私は腰を低く構え、頭の中で唱えた。
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