Saint Valentine's Day.小話集

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それから数日後、 若干晴れ間が見えてきて、ようやく少し暖かくなった日に二人は村を発つことになった。  こんなに長居をするとは思ってもみなかったが、いざ発つことになるといささか寂しい気持ちになったがあえて気のせいだと自分に言い聞かせた。 農民と慣れ合うということがどうも腑に落ちないからだ。 「もう行くんだべか?」 蘭丸と武蔵を見送りに村の外までついてきたいつきは、淋しそうに蘭丸に声をかける。 「うん、そろそろ濃姫様が心配してるからな。今度会ってもお前とは敵同士だよ」 「そっか…そうだべな」 俯くいつきのそばで蘭丸は複雑な心境で黙りこんでしまう。 そんな二人をよそに武蔵は口笛吹いて二人より三歩先を歩いていた。そんな武蔵を見て蘭丸は呑気な奴と呆れていた。 「じゃあ、ここから先は真っ直ぐ行ったらちょっとした村に出るから。おらはもうここで帰るからな」 大きな分かれ道になったところでいつきは立ち止まってこの先を教えた。ここからは隣村の土地になるからだ。 「世話になったな、いつき。ありがとうな」 「武蔵も元気でな。また今度遊びにきてけろ」 「おう!また来るからな~。」 武蔵は元気よく別れを告げて去っていった。 だが、蘭丸は笑って別れを告げることが出来ない。そのまま黙って足早に去ろうとすると、突然腕を後ろから引っ張られ後ろを振り返ると、目の前に笹の葉にくるまれた握り飯が飛び込んだ。 「何だよこれ」 「お腹が空いたら食べてけろ」 「えっ?」 「確かに渡したべ!」 唖然とする蘭丸を尻目にいつきはもと来た道を走っていき、ある程度距離を置いて立ち止まった。 「またなー!!蘭丸ー!!今度はあったかい季節に遊びにきてけろー!」  大きな声でにこやかにそう告げてそのまま元気よく帰っていった。 残された蘭丸は呆気にとられながらも、新たに心に決めたことを胸に誓い、笑顔で帰ることにした。
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