松永様命日記念小説 前編(性的表現ありの為注意!)

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 岸辺にある大岩の影になっているところまで戻り、小十郎はあらかじめ持ってきておいた手拭ですっかり濡れてしまった髪を拭きながら辺りを見回した。辺りは彼が先程まで泳いでいた湖の他に、鬱蒼と生い茂った林以外は何もない。しかし、先程から妙な違和感が漂っているような気がして気になっていた。もとより、滅多に人の来ない所だったので警戒を怠ってしまったかもしれない。武人としてあまりにも間が抜け過ぎているなと自分に苦笑せざるを得なかった。  しかし、その違和感が何なのかが掴めない。熊か何かの獣でなければいいのだが。そう思いながら、近くに黒龍があるのを確認してから火をおこそうとしたその時だった。 「これは何とも、とても扇情的な光景だな。眼福、眼福」  背後からやけにねっとりとした声が聞こえ、小十郎は戦慄を覚えた。  そして、すぐさま手元に寄せておいた黒龍を抜き構えながら背後を振り返る。  小十郎の背後にあたる叢からいつの間にいたのか、男が悠然とそこに立っていたのだ。男に向かって小十郎は睨みを利かせて牽制を図る。
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