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「何故てめえが此処にいる、松永久秀…!!」
「それはこちらが言いたいことだよ竜の右目。此処で何をしている?独眼竜は傍にいないのかね」
殺気にも近い小十郎の視線に臆することなく、質問を返す松永に小十郎は若干のいらだちを覚える。松永についてもそうだが、何よりも警戒心を緩めたがためにこんな男に背後をとられてしまう自分自身に一番いらだちを覚えるのだった。
「政宗様は城におられる。此処にいるのは俺一人だけだ」
「ほう?ならば主を置いて卿一人で此処で暢気に泳いでいたということか。随分危機感のないものだな」
松永の言葉に小十郎は言葉に詰まった。確かに成実達から半ば強制的に休みを取らされたような形だが、供もつけずに一人で遠出に出るなど考えてみれば不用心きわまりない。事実、たった今この危険きわまりない男と対峙する羽目になっているのだから。
「自分の迂闊さを思い知ったところかね。まあ…今はこうやっていがみ合っている場合ではないが。その格好ではどんなに威嚇してもあまり凄みが出ないな」
そう言って小十郎のいる少し手前で屈み、小枝を掻き集め始めた。その行動に意図が読めないでいた小十郎はいぶかし気に松永を見守る。その小十郎の視線に気付いた松永はにこりと小十郎に苦笑まじりに微笑んだ。
「どうした、そんなところで突っ立っていないで火をおこすのを手伝ってくれないか?それともつまらぬ意地でも張って風邪をひくつもりかね。それこそ独眼竜に迷惑をかけることになると思うが?」
これでも卿のためを思ってやっていることだがね。と淡々と小枝を掻き集めると火打石を取り出して火をおこしはじめる。自分のためにやっていることは分かっていても、この男の真意がいまいち読み取れない小十郎はしかたなく刀を納めると、陣羽織を羽織ってからその辺にある燃えやすそうなものを集めることにした。
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