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「燃えたまえ」
「………!ちぃ!」
指先を軽く鳴らす乾いた音が聞こえた後、その音からは想像し難い程に禍々しい炎が一つの生き物のように目につく全てを焼き尽くさんと襲いかかってくる。
その炎と対峙した男はやむを得ず防御に徹する。だが、それはほんの一瞬の出来事で瞬きをする間もなく三方向に放たれた炎の僅かな隙間をかいくぐり稲妻と見紛う峻烈な踏み込みと共に渾身の突きを繰り出した。
しかし、それは惜しくも男の喉元を貫くことは叶わなかった。突きを繰り出した男の太刀の先には炎を放った男が手にする宝刀が立ち塞がっていた。
貫くことが叶わなかった男は小さく舌打ちしながらも次に襲いかかる攻撃に警戒し、一旦間合いを作って身構えた。
その様を宝刀の男、松永久秀は不敵に笑う。この苛烈な戦いに似つかわしくないほど涼やかで余裕のある笑みだった。
留紗那仏が慈悲深く微笑みながら見下ろす先に二人の男が互いに死闘に鎬を削りあう。
いや、正しく言えば久秀はこの死闘に対して向き合ってさえもいない。
もう一人の男が繰り出す電光石火の太刀捌きに対しても、もしかしたらその太刀先にあるかも知れぬ己の死すら彼にとっては興味のないことだろう。
ならば何故に向き合う?何故太刀を振るう?
交差する太刀が奏でる剣戟は語るすべもなくただただ繰り返すばかり。
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