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美坂が視線に気づき、尋ねる。
「どうしたんですか?私の顔に何か付いていますか?」
「えっ…いえ…別に何も…」
橘少年は視線を逸らした。
なんだろう。
この教師に見られるのは物凄く緊張する。
表情は常に穏やかなのだが、切れ長で射ぬくような鋭い眼はまるで、心を全て見透かされそうになる。
美坂の顔をまともに見れなくて、橘少年は俯いた。
「…橘君、今、君は…私のことを怖いと思っている?」
気持ちを言い当てられて、おもわず橘少年の声が上ずる。
「えっ!?そ、そんな事は…!」
橘少年はチラッと美坂を見上げた。
美坂は悲しそうに微笑した。
「いいんですよ…。今はまだ仕方ない…」
美坂のそんな切ない表情を見て、自分の軽はずみな態度で、この人を傷つけてしまったんだと橘少年は思った。
自分が情けなくて、自分を恥じた。
美坂は、見るからに落ち込んでしまった橘少年の頭を優しくぽむぽむと撫でた。
頭を撫でられながら、どうやら、これがこの人の癖なんだろうな、と橘少年は思った。
「私の正体は必ず、いずれ打ち明けましょう。君には知る権利がある。」
美坂が囁いた。
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