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第一章・破られた静寂
(一)
午前6時。
時を告げる柱時計の音を聞きながら、男は目が覚めた。
ムックリと起き、眠そうな目で前を見つめ、あくびを一つ。
ベッドから立ち上がり、窓のカーテンをサァッと引く。
朝の陽光の、なんとまばゆい事か。
んんーと背伸びをして、その場を立ち去る。
寝室を出て、洗面所へ向かう。
洗面所へのドアを開けて入り、パタンとドアを閉める。
そして、鏡を見つめた。
切れ長の目、艶やかな唇。
そして陶磁器のような白い肌。
整った顔立ちはまるで人形を思わせる。
蛇口をひねると、水がとめどなく流れる。
いつものように顔を洗う。
しかし、何年生きていてもこの冷たさに慣れない。
男は水が苦手だった。
びしょびしょの顔を横にかけてあるタオルで拭う。
次に歯磨き。
口を開けると、両端に小さな八重歯がある。
めったに大きく口を開けないので、人に知られたことはない。
歯ブラシに歯磨き粉を付ける。
苺味だった。
男は匂いのキツいものが嫌いだった。
だから、歯磨き粉特有のツーンとした匂いも苦手だった。
だから、歯磨き粉は匂いの少ない苺味かメロン味に決めている。
こんな事実は誰にも知られてはいけない。
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