第一章・破られた静寂

7/8
1023人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
「ちょっ、美坂先生…危ないですよ!」 華奢な美坂が、人だかりをかきわけるのは無理だと思った浅田が、声を大きくして止めようとする。 が。 次の瞬間、人だかりが人一人分通れるぐらいに左右にサァッと分かれた。 呆気にとられる浅田と少年。 美坂は目をすぅっと細めて、にっこり笑うと、二人を呼んだ。 「何してるんですか。今のうちに、早く、」 浅田はお、おぅと頷くとデカイ図体に似合わず、びくびくと人だかりのわずかにできた隙間を通る。 少年も、少しの間躊躇っていたが、意を決して隙間に入り込んだ。 通り抜けると、目の前に櫻の木。 創設時に植えたこの木はもう樹齢どれくらいだろうか。 大きく根を生やし、何百年経った今でもずっと、この学院と生徒達を見守っている。 だが。 明らかに異質な気を感じる。 上を見上げると、四肢をダラリとした少女がぶら下がっていた。 隣に立つ浅田がウッと呻いた。 それはそうだろう。 死体を見慣れない人間には想像を絶する光景だった。 「自殺…ではないでしょうね」 下にできた血溜りと櫻の木に飛び散った血痕が物語っている。 誰がこんなひどい事を。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!