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「ちょっ、美坂先生…危ないですよ!」
華奢な美坂が、人だかりをかきわけるのは無理だと思った浅田が、声を大きくして止めようとする。
が。
次の瞬間、人だかりが人一人分通れるぐらいに左右にサァッと分かれた。
呆気にとられる浅田と少年。
美坂は目をすぅっと細めて、にっこり笑うと、二人を呼んだ。
「何してるんですか。今のうちに、早く、」
浅田はお、おぅと頷くとデカイ図体に似合わず、びくびくと人だかりのわずかにできた隙間を通る。
少年も、少しの間躊躇っていたが、意を決して隙間に入り込んだ。
通り抜けると、目の前に櫻の木。
創設時に植えたこの木はもう樹齢どれくらいだろうか。
大きく根を生やし、何百年経った今でもずっと、この学院と生徒達を見守っている。
だが。
明らかに異質な気を感じる。
上を見上げると、四肢をダラリとした少女がぶら下がっていた。
隣に立つ浅田がウッと呻いた。
それはそうだろう。
死体を見慣れない人間には想像を絶する光景だった。
「自殺…ではないでしょうね」
下にできた血溜りと櫻の木に飛び散った血痕が物語っている。
誰がこんなひどい事を。
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