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月子は総司にすっかり見とれていた。
“僕はその籠を
開ける事ができずに
君を壊してしまったよ…
どうして君を
解放するその一言が
言えなかったんだろう…
自由に羽ばたく君が好きだったのに…”
曲の最中、月子はふと総司と目が合った気がしていた。
(…こっち見てる?)
いや、確かに総司の目線は月子のいる方角を向いているのだが、だからといって月子を見ているとは限らなかった。
(…気のせい…だよね。)
そんな事を考えながら、月子は曲に聴き入っていた。
アンコールも終わり、大盛況のままライヴは終了した。
月子は傘をさしながらぼんやりと雨の夜道を歩きながら余韻に浸っていた。
「…浅羽さん、すごかったなぁ…」
月子は元々、友達も少なく大学でも一人でいる事が多かったので、よくこんな風に考え事に浸る事が多々あった。
端から見たら夢遊病のような月子。
「…私も…あんな風に輝けたらなぁ…」
そんな叶わぬ夢が思い浮かんでは、フッと消え去る。
「…私には…無理だよね…」
月子はふらふらと、考え事に浸りながら信号も見ずに横断歩道へ侵入する。
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