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一つの、町。
多少風が砂を巻き上げて人々を困らせるが、上々繁盛している町だ。
しかもこの時期、より人がわんさかと来る、そんな町……
そこには、小さな女の子がいた。
青に一筋の黄と緑の線が入った髪をいじり、同じ色の目をキョロキョロと動かす。
誰もいないのを確かめると、女の子はニヤリと笑った。
裏路地を小走りに抜け、錆び付いた赤いドアを開ける。
ドアの音が聞こえないように細く開けると、
女の子ははおった青の羽マントをひるがえし、入っていった。
ドアの右上、レンガの壁に刺さった『BAR』と書かれた鉄の看板が、
ゆっくりときしんだ。
「ここ、とってもいいお店ですね」
カウンターに座った客の手が、
氷と液体の入ったグラスを揺らす。
「そうかい? そう言ってもらえると嬉しいね」
少々やせ肩の店主が、
カウンター越しに客に微笑む。
「ええ、飲み物もおいしいし」
長い黒髪がほめるように揺れる。
しかし、それを聞いて店主が少し苦笑いをした。
「そりゃ実際酒を飲んでくれてたら
嬉しいんだけど……」
客が持ったグラスを指差す。
正しくは、その中の液体。
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