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「先生……」
「うん?」
上昇するエレベーターの中で、僕は先生のコートの裾を軽くひっぱた。
ご飯を食べた後、僕らは横浜市街を散策した。三月とはいえ肌寒い夜で、距離を詰めて並んで歩いた。それが嬉しくて、僕はそれだけで満足だった。
そろそろ行こうか、という話になった時には結構いい時間になっていたし、僕は当然先生の部屋に戻るものだと思っていた。でも先生の車は、シティホテルの地下駐車場に滑り込んだのだった。
「どうした?」
観月先生は、戸惑っている僕をやさしいまなざしで見る。
「ここに……泊るの?」
「そうだよ。 嫌?」
「ううん、そんなことない! ただ、驚いたっていうか……急な話についていけないっていうか……」
「サプライズだよ」
先生が愉快そうに笑った。
エレベーターが指定のフロアに止まって、静かにドアが開いた。
「さあ、史也」
促されて、先を歩く先生の後に続く。先生はキーのルームナンバーを確認してから目的の部屋へと向かっている。
僕の心臓はバクバクと早い速度で打っている。ドキドキしすぎて、苦しい。
「史也。入って」
カードキーを使って解錠したドアを、先生が開く。
「すごい! きれい!」
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