『追跡』

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【小田切】がまだ三階の部屋にも辿り着いていない頃、【神崎】は実験室にて二人の死体の運搬を待っていた。 何せ仮面のスタッフといえど、ここまでの死体は見たことが無い。 その為どの仮面の男からも、重苦しい雰囲気が漂っている。 必然的に運搬作業も、遅々として進まない状況にあった。 【神崎】は無数に並べられた薬品から巻き起こる薬品臭と、最新鋭と思われる精密機械から立ち込める電子臭に囲まれたこの場所で【小田切】の動きと狙いをもう一度整理、推測する事にした。 (まず、狙いと目的はハッキリしている。考えるまでもなく【脱出】だ。 俺や【漆黒館】に対しての復讐、という線も有るが復讐出来れば死んでもいい、と考えるタイプでは無い気がする。 まぁ、あいつなら差し違えても復讐する、とか言いそうだが) 偶然頭に浮かんだ若き銀髪の友人。 彼はあれからでも二週間に一度はここ【漆黒館】へ連絡を入れてくるのだった。 『金を預かっている側が近況報告をするのは当たり前でしょう』 その台詞を建前に一人残った【神崎】の安否を彼は日々気遣っていた。 (あいつの為にも【小田切】を野放しには出来ないな) 【神崎】は若い友人の顔を思い出しながら決意を新たに更に頭を巡らせた。
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